金融を取巻く環境は日々激しく変化しており、私ども中小企業も、この「金融環境の変化」と、この環境下での「銀行の事情」、「銀行の意思決定ルール」を注視・理解しておく必要があります。
● 改正金融機能強化法について
銀行が「改正金融機能強化法」を活用し、公的資金を使って自己資本比率を引き上げることにより、中小企業への融資余力が高まることになりそうです。この法律は、「健全な金融機関にも予防的に公的資金を注入し、資本増強できるようにした旧金融機能強化法」を改正したもの(平成20年12月17日施行)です。新法では、経営責任を一律には問わないなど資本注入の要件が緩和され、金融機関の申請を促し、中小企業向け融資の円滑化を図る内容となっています。一方で金融界は「公的資金による救済」との風評被害が広がることを懸念し、活用されるかどうか不透明な部分もあります。
● 銀行の意思決定ルールについて
銀行の経営者が最も注意を払う経営指標が自行の自己資本比率(自己資本/リスクアセット)(注1)です。銀行が100%保証のノーリスク緊急経済対策融資(セーフティネット保証による融資)を渋る要因をこの指標に関連させてご説明いたします。
1)いわゆる信用保証協会付貸出(緊急経済対策の100%保証か80%の通常保証かに関係なく)も、自己資本比率計算上10%だけリスクアセットを増加させます(=分母の増加=自己資本比率の悪化)。
2)金融検査マニュアルに従った債務者区分の自己査定において、銀行側の要注意先債権に対する引当・償却処理方針が自己資本比率に影響します。その処理方針は、債権総額に対して予測損失額を見積もる方法と債権総額から優良保証や優良担保の処分可能見込額により保全されている債権部分を除いて引当処理をする方法があります。前者の方法を採用している銀行の場合(=分子の減少=自己資本比率の悪化)、貸出に消極的になり、後者を採用している銀行の場合は前向きに取り組み易いと言えます。
3)サブプライム問題に端を発した金融危機や世界同時不況の影響で、多くの金融機関が運用する有価証券について、多額の評価損(=分子の減少=自己資本比率の悪化)が発生しているようです。
(注1)銀行の自己資本比率
銀行の経営状態の健全性をチェックする指標。一般企業の財務諸表における自己資本比率とは異なる。リスクアセット(総資産のうち、万が一の場合に貸倒れの可能性がある資産)に対して資本金などの自己資本がどれくらいあるかを示す指標を指す。国際業務を行っている銀行は「新BIS規制」が適用され「8%以上」、国内業務のみ行っている銀行は「金融庁規制」が適用され「4%以上」が健全性の基準となっている。この基準を下回ると、当局より早期是正措置が発動され、業務改善命令、ひいては業務停止命令の対象となる。(久保 康高)