全国法人会総連合が同会会員に対して行った調査で「当面事業承継をする予定がない」と答えた人のうち、その理由について「まだ具体的に考えていない」という人が77%に上ったことが判明した。継続・非継続をはっきりと決めかねている経営者が大多数を占めているが、相続が目前に迫ってから突然考えてもうまくいかないことが多い。相続について具体的に考えていないという人にも心に留めておきたい注意点に次のようなものがある。
①自社株は後継者に集める
自社株を方々にばらまくともう一度集めるのに困難を要する。相続税対策のために親戚に分配した等ということもよくあるが、当初の考えがどうであれその株式が1世代後に相続されれば最初の意図など関係ない相手へ承継されていくことになり、自社株を集めなおすためにお金を積むしかなくなる。
②自社株以外の財産をつくる
財産が自社株式しかない場合、遺留分の請求があれば自社株式を分割せざるを得ない。一般的には自社株式と同等の金銭を渡すことになるため、後継者の手元に相続用の資金をためるよう配慮したほうがよい。
③共同経営は避ける
景気がいいときは問題なく共同経営できても、不景気で最悪廃業となったときには共同ではうまく乗り切れないことが多いため避けたほうがよい。
④事業承継税制の利用
事業承継税制を適用できれば自社株式にかかる相続税のうち8割の納税が猶予されるが、納税猶予期間中も一定の要件を満たさなければならない。中でもネックとされるのが従業員の8割の雇用を維持するというもの。古参の従業員と新しい経営者との関係等、先代の経営者が道筋を考えておく必要がある。
⑤相続は争うもの
通常相続が始まるまでは「相続税をできるだけ安くしたい」という気持ちがあるが、いざ相続が始まってしまうと「少々相続税がかかっても自分の取り分を少しでも多くしたい」と考える相続人は多いという。このように親族が争わないで済む円満な相続のためには、何よりも遺言書の存在が必須となる。
なお、自筆での遺言書の場合その正当性について疑われる可能性もあるため、できる限り公正証書遺言にしておくほうが安心である。 (岡村 香織)