以前から話題に上っていた相続税の基礎控除の縮小。25年度の税制改正大綱には具体的な適用開始時期も盛り込まれ、いよいよ現実的なものとなってきました。以前、情報番組で都内に住む老夫婦が今回の改正の影響について取材を受けていました。内容は「現預金などの財産はあまり無いが、土地の価値だけは昔より大幅に上がっている為、このままだと相続税の支払いのために土地を手放さなければ税金が払えない。先代から受け継いだこの場所だけは手放したくはないのですが・・」というものでした。昔に購入した都内の土地が、今では何倍、何十倍という価値に跳ね上がっているケースは珍しくはありません。思い入れの深い住み慣れた土地を、税金の支払いの為に換金しなければならないというのは、非常に辛い決断といえるでしょう。残念ながらその番組の中では放送されていなかったものの、実際には国もそこまで非情ではありません。残された家族のその後の生活を守る為、居住用や事業用といった一定の目的の為に使用していた土地については相続税評価額を減額するという特例(小規模宅地の特例)が設けられているのです。今回はケースとして最も多い、居住用不動産を相続により取得した場合の減額効果について見てみます。※相続人は配偶者である妻と子の 計2名 という設定です。
★居住用不動産8,500万円 ※内訳(土地「330㎡」8,000万・建物500万)
★現預金200万
★改正後の基礎控除額:3,000万円+600万円×2名 計4,200万
このケースの場合では、基礎控除額(4,200万円)を財産の額(計8,700万円)が上回っているので相続税がかかる様に思えます。
しかし、特例を適用することで下記の様になります。
※今回適用しているのは小規模宅地等の特例のうち、「特定居住用宅地等」の特例といい、被相続人が居住していた宅地等を、配偶者や一定の要件を満たした親族が相続や遺贈により取得し、申告期限まで引き続き居住している場合、(現行)240㎡→(改正案)330㎡ までの部分を上限として、評価を80%減額できます。
330㎡ 8000万円
特例を使うと ↓
330㎡ 8000万円が→1600万円に
以上により、相続財産が当初8,700万円(土地8,000万+建物500万+現預金200万)から2,300万円(土地1,600万+建物500万+現預金200万)となり、基礎控除額4200万円を下回ることになります。結果として相続税はかかりません。
今回は特例を使った場合をイメージしやすい様に簡単に説明しましたが、実際には対象となる土地や取得者ごとの要件は非常に複雑に規定されており、誰が相続するかによって適用の有無も変わってきます。また、もともと税金がかからない場合には申告自体が不要ですが、この特例を使った結果として税金がかからない場合には、申告は必要になるという事にも注意が必要です。現在要件を満たしていない場合でも、相続発生前であれば税金対策としてこれから要件を満たす事も不可能ではありませんので、心配な方は是非ご相談ください。
取材に応じていたあの老夫婦も、この特例を使って不動産を手放さずに済みますように・・。
(斎藤 勝)