各金融機関は融資先の企業に対する貸付債権に対して、「自己査定」というものを行っています。「自己査定」とは融資先企業を、財務状況や経営状況に応じて「正常先・要注意先・破綻懸念先・実質破綻先・破綻先」などの区分に分類し、債権のうち担保や保証により回収が保全されている部分を除いた金額に対して、将来の損失(返済不能)に備えて前もって費用(引当金)を計上しています。この「引当金」は金融機関にとっては財務悪化要因となるため、出来れば計上したくないというのが本音です。
先月末に終了した中小企業金融円滑化法の適用により、元本返済の猶予及び減額等が行われている貸出条件緩和債権は、返済可能性の低い債権として評価される為、金融機関にとっては頭の痛い問題です。しかし、金融庁が各金融機関に対して査定基準等を示した「金融検査マニュアル」には、一定の要件を満たした計画書の提出があれば、「貸出条件緩和債権には該当しないものとして取り扱って差し支えない」とされている為、少しでも引当金の計上を減らしたいと願う金融機関から、計画書の提出を求められるケースが増えているようです。
しかし、本来あるべき経営計画書の姿とは、金融機関の為に作成してあげるものなのでしょうか?おそらく本来の経営計画書とは、会社の益々の発展のため、その会社で働く人々の生活を守るため、会社の経営を通じて社会に貢献し続ける為に作成すべきものではないでしょうか。特に昨今の様な厳しい経営環境における局面では、その必要性は更に高まっています。一昔前であれば、目先の仕事だけをこなしていれば、自然と売上も右肩上がりになっていた時代があったかもしれません。しかし今は、成長の為の投資を行っていても売上が少しずつ減少、もしくは現状維持で精一杯・・という会社も少なくありません。
計画書を作成して何が変わるのか?・・「計画書を作成したって、その通りに売上が上がる訳が無いのだから、意味ないのではないか?・・」そんな声が聞こえてきそうですが、果たしてそうでしょうか。金融機関に提出する為に作成する計画書であれば、「経営計画書」と書かれた紙そのものに意味があるかもしれません。しかし、どこに提出するわけでもない「会社の為に作成する計画書」作成の目的は、作成を通じて自社の現状(弱みや強み)の分析や課題等の情報を整理しながら、経営に本気で向き合う時間がとれるという事だと思います。日々お忙しい経営者の方は、漠然と今後の会社の行く末について不安を抱えながらも、経営の事についてじっくり考える時間がなかなかとれないのが現状ではないでしょうか。しかし、会社の将来的な成長を強く望むのならば、少なくともその時間をつくらなければなりません。そして明確な根拠の上で試行錯誤の末に出来あがった計画書は、その後全社一丸となって達成すべき目標として、形で示すことが可能な上、目標と実績との乖離を定期的に把握、修正していく為の土台となります。「銀行に提出して、はい終わり」という計画書とは、似ても似つかないものなのです。
成長の為には、行動が必要です。そして行動する為には指針となる計画が必要です。アベノミクス効果により、一部景気が持ち直しているという報道もありますが、景気頼りの経営ではなく、景気に左右されない強い会社を是非つくっていただきたいと思います。
ひろしま会計事務所は全国の会計事務所の経営計画研究組織「あんしん経営をサポートする会」に参加して、現在、お客様の経営計画策定のサポートをさせていただいております。
(斎藤 勝)