法人の役員の中には、2以上の法人で役員をしている方がいます。一方の法人では代表取締役であり、もう一方では取締役をしているような場合です。この場合、2ヶ所の法人で社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入するべきなのでしょうか?
通常、それぞれの法人で加入要件を満たしていれば、それぞれの法人で加入が必要です。「すでに一方の法人で社会保険に加入しているから、もう一方の法人では加入する必要はない」と思われるかもしれませんが、それは間違いです。
従業員の場合、「正社員の労働時間や勤務日数の概ね4分の3以上」を満たせば社会保険に加入しなければなりません。ただし、一般的な労働者の場合、2以上の法人で働いていると、正社員の4分の3以上という加入要件に基づくと、物理的に片方の法人でしか社会保険の加入対象になりません。しかし、法人の役員の場合、下記を踏まえて総合的に判断することとされ、それぞれの法人で社会保険の加入対象となりえます。
① 経営に携わっているか
② 役員としての業務執行権を有しているか(代表権があるか、通常の取締役か)
③ 役員会議への出席の有無
④ 報酬額は妥当か
⑤ 勤務実態がどれくらいか(正社員の4分の3未満か)
2以上の法人に勤務する場合、新たに勤務する法人においても被保険者の資格があるときは、新たに勤務する法人において「被保険者資格取得届」を提出します。加えて、被保険者が選択するいずれかの法人を管轄する年金事務所に「被保険者所属選択届・二以上事業所勤務届」を提出し、該当する法人での全ての報酬を合算した額を基に一つの標準報酬月額が決められます。社会保険料の納付・負担については、複数の法人の役員報酬の額を合算して、各法人の役員報酬の額に応じて按分した金額がそれぞれの法人での社会保険料となります。
【具体例】 A社で40万円、B社で30万円の役員報酬を受けている代表取締役の場合
A社40万円+B社30万円=70万円で標準報酬月額を算定
A社 標準報酬月額×保険料率×40万円/70万円
B社 標準報酬月額×保険料率×30万円/70万円
上記により算出した額を各法人と被保険者が折半の上、納付することとなります。
つまり2以上の法人で社会保険に加入する場合、どちらの法人でどれだけの役員報酬を支払ったとしても、その役員が負担する社会保険料額は、役員報酬の合計額分にかかる分となります。今までは、この2以上の法人での勤務にかかる社会保険料に関しては、事務手続きや管理が煩雑などの理由から、厳しく追求はされてきませんでした。
しかし、マイナンバー制度の開始により、今後深く追求されることが予想されます。
(伊藤 淳二)