一般的に相続税の税務調査において申告漏れがあった相続財産の内訳では、現金、預貯金が最も多くなっているようです。その中でも「家族名義預金」、つまり相続開始時においては妻や子、孫の名義になっている預金であっても実質的には被相続人(亡くなった人)の預貯金であると認定される事案が増加しているようです。一例をあげます。
・被相続人は生前、毎月生活費として妻に一定の金額を渡していた。
・妻は被相続人から口頭で、生活費の余った分は好きにしていいと言われていた。
・妻は本人(妻)名義で余ったお金を貯蓄していた。
・妻は親の相続等で財産を取得した事は無く、また結婚後も専業主婦で無収入であった。
・被相続人の相続に係る相続税の申告で妻名義の預金は妻が贈与を受けた財産であると
して申告しなかったところ、所轄税務署から被相続人の相続財産に含まれるとして更正処分をうけた。
その預貯金が、被相続人のものであるか、名義人のものであるかの判断は、形式基準ではなく実質基準でなされ、実質所有者の判定にあたっては、次の3点が重要な要素となってくると言えます。
① 資金原資・・・その預貯金は誰の原資で貯蓄されたものか。
・被相続人の現金又は預貯金等を原資としている。
・被相続人の給与収入や不動産収入を原資としている。
・各名義人からの贈与税申告がない。
・名義人にはその預貯金を形成又は貯蓄するだけの収入がない、他。
② 管理・・・・・その預貯金の通帳及び印鑑を誰が管理していたか。(実質の管理者)
・届出印鑑、通帳、カード、定期預金証書等の管理と保管は生前被相続人が行っていた。
・被相続人の届出印鑑と同一のものが使用されているなど、他。
③ 運用支配・・・その預貯金の入出金、継続又は解約は誰の意思で行われていたか。
・口座開設手続き,継続や解約手続きを被相続人が行っている。日常の入出金も被相続人自ら行っていた。(口座開設書、解約書、伝票等の筆跡で判定される。)
・預貯金の入出金や解約についての決定権を持っているのが被相続人である,他。
このような場合には、家族名義でも被相続人の相続財産であると認められるようです。
「預貯金の生前贈与を実行する場合の注意点」
1.贈与契約書の作成・実行(現金を移す場合は、銀行振り込みにして証拠を残す。)
2.通帳・印鑑・カード等の管理は受遺者が行う。
3.受遺者の自由意思で入出金、解約が出来ること。
4.贈与税の申告をすること。
などが大切になります。
相続診断士 平林 明子