独身で子供もいない長男が亡くなり、母親が一人法定相続人であった場合、母親が相続を放棄すると、相続税の計算はどのようになるのでしょう。母親の夫(被相続人の父)は以前に死亡し、長男の他に子供は、長女、二女、次男がいるとします。
母親が相続を放棄するとなると被相続人の財産は兄弟姉妹が相続することになります。これら相続に関する事柄は「民法」によって定められています。財産を相続する手続きは民法にしたがっておこなわれますが、それにより発生する相続税は「相続税法」という別の法律に基づいて計算し、納税することになります。相続税法は「課税」を目的にした法律ですので、人によって課税が不公平になることのないように、一部民法とは異なる特別な扱いがあります。
相続税法第15条2項(遺産に係る基礎控除を計算する上での相続人の数) 相続の放棄があった場合には、その放棄がなかったものとした場合における相続人の数とする。
したがって、法定相続人の数は、放棄がなかったものとした場合の法定相続人の数・法定相続分は、放棄がなかったものとした場合の各法定相続分となります。
これらは相続税の計算過程において、基礎控除や生命保険・死亡退職金の非課税金額、相続税の総額の計算などで使用します。
前出のケースで、仮に被相続人の遺産額を1億3600万円とした場合どういった計算で税額を算出するのでしょうか。母親が放棄をしても相続税法上の法定相続人は1人、法定相続分は1/1となり以下のような計算になります。
相 続 人 | 長女・二女・次男 |
基礎控除 | 3000万円+600万円×1人=3600万円 |
相続税の総額 | 1億3600万円-3600万円=1億円
1億円×1/1(母親の法定相続分)×30%-700万円=2300万円 |
相続税の加算総額 | 2300万円×20%=460万円・・・☆ |
納付すべき相続税合計額 | 2300万円+460万円=2760万円
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☆相続税額の加算・・・配偶者、および1親等の血族、すなわち子(代襲相続人となった孫を含み、代襲相続人となっていない孫養子を除く)および直系尊属以外の方が相続した場合には、その者の相続税額が20%加算されます。
民法上の相続人は3人ですが、相続税の計算上は1人。民法上の法定相続分は各人1/3ですが、相続税の総額を計算する上で用いる法定相続分は1/1となります。
相続診断士 平林 明子