2020年東京オリンピックの開催が約2年後となりました。経営者との会話でこの一大イベント後の景気動向や不動産市場動向の予測話がよく話題となります。空き家・空き地問題については過去何度か取り上げていますが、今号では不動産市場動向に大きく影響すると思われる「生産緑地2022年問題」について取り上げます。
生産緑地制度は、都市部に農地を残すため1992年に始まった制度で、30年間にわたって農業を続けることを義務(営農義務)付ける一方で相続税の支払猶予などの優遇が認められています。全国に約1万3,000ヘクタール(=4,066万坪=東京ドーム2,922個分)あり、そのうち56%が東京都・埼玉県・神奈川県・千葉県に集中しており、山の手線の内側には一切存在せず、その外周部に多く存在しています。
2022年に約8割の生産緑地の税優遇の期限切れを迎えるため「2022年問題」と呼ばれ、これに対して何も対策を講じなければ宅地供給が急激に膨らみ住宅市場が混乱するのではないかと懸念されています。そこで国は地主が第三者に生産緑地を貸しても税優遇が受けられるよう生産緑地法の一部を改正し2018年9月1日より施行されます。
なお、借り手は生産緑地で育てた農作物の一定割合を周辺地域に売ることなど、条件付きの賃借契約を結ぶこととなります。
2017年6月15日の改正により地主は10年の指定延長(特定生産緑地を指定)か、自治体への買取り申請を選べますが、財政的に余裕のない自治体は買取ることが難しいと言われています。地主が高齢化・故障・後継者不在等を理由に農業の継続を断念して一斉に土地を手放せば、宅地への転用が急増し、地価が下落するリスクが膨らむという憶測です。
東京都が平成27年度に都内区市在住農家を対象に実施したアンケート調査では、約45%が「所有する生産緑地の8割以上に相続税納税猶予制度を適用している」と回答しており、残りの55%が実質的な買取り申し出の対象となるのではないかと類推されています。では、納税猶予制度の適用を受けていない55%の農家の生産緑地の今後の利用意向はどうなのでしょうか。「すぐ区市へ買取り申し出したい」が約8%、「分からない」約53%、「生産緑地を継続し、農地として利用するつもり」34%と回答しており、一斉に買取り申し出が行われることはなさそうですが、「分からない」と回答した農家が流動的で、買取り申し出以外に、第三者に貸し出す、あるいは、課税強化を受け入れて生産緑地を継続し直売所・農家レストラン等を設置し収益力強化を図る可能性がありそうです。
2017年6月に自治体が条例で定めれば、生産緑地の面積要件を500㎡から300㎡に引き下げられるなど生産緑地がある自治体では要件緩和の条例が相次いでおり、農地の宅地化抑制に舵を切ったようです。首都圏で面積要件を引き下げた自治体は練馬区、世田谷区、江戸川区、杉並区、足立区、横浜市、川崎市、さいたま市、流山市です。
少子高齢化で人口が減少する中でオフィスビル・住宅の供給過剰という外部環境以外に生産緑地の維持がされているのかどうかといった点にも着目していた方がよさそうです。
税理士 久保 康高