令和2年5月4日、政府の新型コロナウイルス感染症対策本部において、首都圏ほかの緊急事態宣言が5月31日まで延長することが決定されました。毎日のように会社倒産のニュースが目に飛び込んで来る、緊急事態宣言の解除の目安の指標・数字が示されないなど、先行き不透明な状態が続いています。
このような時、我々が注意しなければならないのは、緊急事態だからといって不安感を社内で態度に表したり、大声を発したりなど、社内の心理的安全性を脅かしてはいけないということです。先日、スタッフがいる前で融資のことについて金融機関へ、雇用調整助成金のことについて社労士へ大声で電話している経営者を見かけ私自身が強く感じたことです。
先行き不安心理から日本政策金融公庫の無担保無利子融資やセーフティーネット保証融資を受けた経営者の方々も多いと思います。実際に融資を受けた会社経営者によると融資額の融通はそれほど利かないものの据置期間や返済期間には柔軟に対応して頂けるとのことです。もしこれから融資相談に行かれる場合は念頭に置いておかれるよろしいと思います。先行き不安で実質無利子だから借りておいた経営者の方々も散見されますが、必要なければ1年後に一括返済してもよいので賢明な判断と言えます。解約返戻金のある生命保険に加入されている場合は、解約返戻金相当額まで契約者貸付として無利子で貸し付けてもらうことも緊急時の一種の資金調達手段として覚えておかれるといいでしょう。
次に役員報酬を含めた固定費削減に既に着手されている経営者もいらっしゃいます。その場合に大切なのは損益分岐点比率が何%で損益分岐点売上高(BEP)がいくらなのかという現状認識です。損益分岐点比率が80%の会社であれば、売上が20%超減少しない限り赤字にならないことを意味しています。言い換えると固定費を回収できる限界利益(粗利)をいかに高めるか考えることが大切になります。
さらに長期的な視点で自己資本比率の話をします。普段滅多に見ないと思いますが、自社の貸借対照表の自己資本比率を見返してみてください。よく赤字決算となった時に、この赤字はあと〇年続けても大丈夫ですという説明を受けたことがあるかと思いますが、それは自己資本の金額を赤字額で割って算出しています。急成長中且つ自己資本比率10%以下の会社においてもし売上が急減したらかなり危ないと言えます。ちなみに中小企業庁が発表している適債要件は自己資本比率20%以上ですので目指す目安としてはいかがでしょうか。
この場合、実質自己資本比率を算出する際には、役員借入金を実質的に自己資本とみなす、売掛金・貸付金・仮払金・などの資産債権の実態把握、在庫・投資有価証券・不動産を含む固定資産の時価評価など諸事情を勘案することも必要でしょう。会計上は貸借対照表を改善することが会社存続を意味します。
経営上は、スタッフの心理的安全性を保ち士気を下げないことが売上を上げるための組織戦力を保つことに繋がります。グーグル社は「心理的安全性は成功するチームの構築に最も重要なものである」と発表したことで注目されました。かの有名な名経営者の稲盛和夫氏は経営の肝は「楽観的に構想し、悲観的に計画し、楽観的に実行する」こととおっしゃっています。
リーマンショック、コロナショックなど予期せぬことが今後も起こることを想定して、職業的会計人としては存続のための貸借対照表の改善・健全化に臨んで欲しいと切に願います。
税理士 久保 康高