令和3年度税制改正大綱の中から地味ながらも事務手続きの簡素化という意味で大きな改正である押印義務の廃止以外で新型コロナウイルスの感染拡大で経済的打撃を受けた事業者の負担を和らげる措置をご紹介いたします。
コロナ禍で従業員をやむを得ず解雇や新規採用を見送るケースが出てきています。
そこで雇用の継続、維持を図るため、賃上げと雇用に関する所得拡大促進税制の要件緩和措置がなされております。
中小企業の場合、雇用している従業員の給与等支給額が前期に比べて1.5%以上増加していれば、増加額の15%を税額控除できるようになりました。さらに増加率が2.5%以上であれば25%を税額控除することが可能です。
これまでは前期から当期までずっと雇用していた「継続雇用者」に対する給与と給与支給総額の二つの比較で、いずれも前期より増加している必要がありました。今般の改正で「継続雇用者」の給与支給増加の要件がなくなり、単純な給与支給総額の増加のみで適用要件を満たすことが可能になりました。
要件を判定する場合にも、雇用調整助成金及びこれに類するものの額を控除しないで判定します。税額控除率を乗ずる基礎となる給与上昇額の計算においては雇用調整助成金等の額を控除して計算します。
税額控除額については、法人税額及び所得税額の20%が上限となっております。
令和3年4月1日から令和5年3月31日までの間に開始する事業年度(個人事業主は令和4年分)から適用され、設立事業年度(開業年分)は対象外となっております。
法人の場合を例にとって具体例を挙げて解説します。
①A社の場合
- 従業員の給与を総額で300万円上昇させた。
- 従業員の給与を総額で前年度より1.5%上昇させた。
給与上昇額の15%(300万円×0.15=)45万円が法人税から税額控除されます。
②B社の場合
- 従業員の給与を総額で500万円上昇させた。
- 従業員の給与を総額で前年度より2.5%上昇させた。
- 雇用調整助成金を100万円受給した。
給与上昇基礎額は、500万円-100万円=400万円
給与上昇額の25%(400万円×0.25=)100万円が法人税から税額控除されます。
※上記①、②の場合、共に法人税額の20%が税額控除額の上限となっております。
税理士 久保 康高