話は少し過去にさかのぼりますが、平成28年税制改正にて可決された消費税のインボイス制度。聞いたことはあっても、詳しい事までは知らない方も多いのではないでしょうか?
そこで今回は、このインボイス制度により変わる内容について、大事な点をお知らせします。
導入の背景の1つは「益税の解消」
そもそも益税とは何か?まず消費税の基本的な考え方は、「預かった消費税-預けた消費税=納税額」です。たとえばA事業者から商品110万円(税込)を購入したB事業者がいたとします。他に取引がないと仮定した場合、A事業者の売上に含まれる消費税分10万円は、B事業者から預かった消費税として、そのまま国と地方へ納める事になります。仮にA事業者が消費税の免税事業者だった場合、この10万円の消費税は納める義務がないため、そのままA事業者の手元に残ります。一方でB事業者はどうでしょうか?B事業者はA事業者が消費税を、納める・納めないに関わらず、A事業者に預けた消費税等10万円については、自社の消費税額計算において納付額から控除しますので、単純に国に入る税収が10万円少なくなります。A事業者が免税事業者だったが故、本来なら国が受け取るはずだった消費税等がA事業者の利益となるため、「益税」と呼ばれます。
インボイス制度導入で何が変わるか?
〇適格請求書がないと、取引相手が仕入税額控除できない(段階的に縮小80%→0%に)
制度開始後は、適格請求書発行事業者が発行した適格請求書がなければ、取引先企業は仕入税額控除の摘要を受ける事ができません。前の例のA事業者が仮に登録事業者にならなかった場合には、B事業者は消費税の仕入税額控除が受けられず、納付税額が10万円増える事になります。ただし、一定期間については、仕入税額相当額の一定割合を控除できる経過措置が設けられているので、いきなり全額控除ができなくなる訳ではありません。
令和5年10月1日から令和8年9月30日まで・・・・仕入税額相当額の80%
令和8年10月1日から令和11年9月30日まで・・・・仕入税額相当額の50%
〇適格請求書発行事業者登録をすると、免税事業者にはなれない
これまでは、基準期間の課税売上が1000万円以下の事業主は消費税の免税事業者になれました。しかし、上記の基準を満たしていても適格請求書発行事業者は免税事業者にはなる事はできません。言い換えると課税事業者でないと登録ができないという事です。新設法人の場合は、「課税事業者選択届」を提出し、あえて課税事業者になる事を自ら選択した上で、発行事業者の登録をする必要があります。
以上の様に、制度開始後は自社の損得だけでなく、取引先の税負担まで考えて決断しなければいけなくなります。
預かった消費税を納めているだけ・・という消費税の仕組みを考えれば、得をする損をするという話ではないのですが、少なくともこれまで益税の恩恵を受けてきた事業者にとって今後の取引を考える上では、発行事業者となって消費税を納める義務を自ら選択するか、消費税を上乗せしない本体価格だけの請求とするか、取引相手との関係性を十分に考えたうえで、判断していく必要がありそうです。
(斎藤 勝)