現在、中小企業の経営者の皆様から数多くの新事業構想の話を頂いております。その中で最も関心のあることとして挙げられるのが、新事業へ投資の回収判断の問題でした。そこで今号では一つの判断基準として回収期間法とNPV(正味現在価値)法について数値例を用いてご紹介いたします。
仮に7,000万円の事業投資が必要で、1年目に1,000万円、2年目に2,000万円、3年目に3,000万円、4年目に4,000万円の経常利益(キャッシュの回収)が見込まれるとします。投資した7,000万円のうち1年目の時点で1,000万円を回収、2年目の時点で累計3,000万円を回収、3年目の時点で累計6,000万円を回収していますので、3年目から4年目の間に投資額である7,000万円の回収ができそうです。
4年目は残り1,000万円を回収すればよく、4,000万円の回収見込みですので、1,000万円÷4,000万円×12ヶ月=3ヶ月、つまり3年3ヶ月で回収可能という計算になります。もし1年目が2,000万円の赤字見込みの場合、丸4年間で回収可能という計算になります。
今般の事業再構築補助金の申請における事業計画書では、3~5年の事業計画を要求していますので、回収期間は5年以内であることが理想です。
この回収期間法の考え方は単純でとても分かり易いのですが、企業価値の最大化を目的とするファイナンス理論の観点からは時間価値を無視している点と投資額を回収した後の資金の再投資を無視している点をデメリットとして挙げられます。
時間価値を重視する経営者は、将来のキャッシュの割引計算を行うNPV(正味現在価値)法という手法により投資の判断を行います。仮に割引率・資本コスト(借入利子等の資金調達コスト)を5%としますと、1年目の現価係数は0.95、2年目0.91、3年目0.86、4年目0.82となります。
※現価係数= n=各年度
上記の例で計算しますと、1年目1,000万円×0.95=950万円、2年目2, 000万円×0.91=1,820万円、3年目3,000万円×0.86=2,580万円、4年目4,000万×0.82=3,280万円となり、4年目までの回収キャッシュ合計は、8,630万円となり、投資額の7, 000万円を差し引いた1,630万円を正味現在価値と考え、プラスなので投資するという判断をします。もし1年目が2,000万円の赤字見込みの場合は、-2,000万円×0.95=-1,900万円として計算し、4年目までのキャッシュ合計は5,780万円となり、投資額の7,000万円を差し引くとマイナス1,220万円となるため、5年目のキャッシュの回収見込額によって投資判断をします。ただし、正しい割引率や成功確率は誰にも分からないため、わざわざ難しい計算をするこの方法は中小企業の投資判断手法としては馴染まないと思われます。
中小企業の財務基盤から考えると投資回収期間は5年以内が理想であるのと5年後はビジネスモデルが陳腐化していて収益性が下がる可能性が高いので単純な回収期間法で考えてもなんら差支えはないと思われます。新事業への投資判断基準として回収期間法によっておおまかに回収期間を計算してみてはいかがでしょうか。
税理士 久保 康高