遺言者が自身の意思で自身の財産を死後どのように分配してほしいかを、書き残すことを遺言といいます。例えば相続人が兄弟姉妹しかおらず、そのうち何人かは先に死亡をしていたりしますと、ほとんど交流のない甥・姪が相続人になりうるケースが発生します。このような場合は、遺言がないと相続人間でのもめごとが発生し、故人の悲しみが想像されます。こんな事態は避けたいですね。
遺言にて、相続人でない第三者に遺産を寄付することを遺贈寄付といいます。遺贈する相手は、個人でも、法人でも可能です。
今回は遺言で、財産の全部または一部を寄付する場合(遺贈寄付)の留意点について簡単にご説明いたします。(公正証書遺言を作成する前提でお話をすすめます)
遺贈には大きく分けて2つの形があります。
特定遺贈・・・その特定された財産だけを遺贈すること
包括遺贈・・・相続財産の全部または一定の割合分を特定の人・法人に遺贈すること
両者にはそれぞれメリット・デメリットがありますが、また別の機会にお話ししたいと思います。
先ほどの例に挙げたような場合で遺産は現預金のみ。相続人である、兄弟姉妹や甥・姪にある程度遺産を分割して相続してもらい、残りを遺贈により例えば、国や地方公共団体などに寄付すると仮定して話を進めます。
相続税は、相続又は遺贈により財産を取得した個人に課される税です。従って、国・地方公共団体や法人は遺贈により財産を取得したとしても納税義務が発生せず、原則的に相続税は課税されません。例外として、遺言による寄付が相続税を不当に減少させるために行われた行為(いわゆる租税回避)とみなされるときは、その法人は個人とみなされ相続税が課されます。(例えば遺言者自身や身内が経営している会社へ相続税の負担を減らす目的で遺贈寄付をしたりするケースなど。)
この例では法定相続人は7名、相続財産は現金のみ一億円とします。相続人には一律
1,000万円円ずつ相続してもらい、残り3,000万円を国に遺贈寄付したとします。基礎控除が3,000万円+600万円×7=7,200万円
国に遺贈寄付した3,000万円には相続税は課せられません。残り7,000万円は基礎控除以内なので相続税はかかりません。
ただし、遺贈寄付するのにはいくつか注意点があります。一つ目は遺言が確実に実現するために、専門家に相談の上、なるべく公正証書にて作成すること。二つ目は遺言執行者を選任すること。三つめは遺留分(遺産のうち相続人が最低限貰える権利)を侵さない遺言であること。(この例のケースでは、相続人が兄弟姉妹・甥・姪なので遺留分は発生しません。)
近年ある団体の調査では、40歳以上の日本人の21%が、人生の集大成として、遺産の一部を寄付してもいいと考えているそうです。いかがお考えになりますでしょうか。
相続診断士 平林 明子