令和5年11月29日に労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針を内閣官房及び公正取引委員会の連名で公表しました。
令和5年の春季労使交渉の賃上げ率は約30年ぶりの高い伸びとなったものの、令和4年4月以降、現時点に至るまで、急激な物価上昇に対して賃金の上昇が追いついていません。この急激な物価上昇を乗り越え、持続的な構造的賃上げを実現するためには、特に我が国の雇用の7割を占める中小企業がその原資を確保できる取引環境を整備することが重要です。その取引環境の整備の一環として今般、内閣官房及び公正取引委員会の連名で「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」を策定し、公表しました。概要は以下の通りです。
1 指針の性格
✓ 労務費の転嫁に関する事業者の発注者・受注者の双方の立場からの行動指針。
✓ 発注者及び受注者が採るべき行動/求められる行動を12の行動指針として取りまとめ、「労務費の適切な転嫁に向けた取組事例」、「留意すべき点」などを記載。
・ 本指針に記載の12の行動指針に沿わないような行為をすることにより、公正な競争を阻害するおそれがある場合には、公正取引委員会において独占禁止法及び下請代金法に基づき厳正に対処することを明記。
・ 他方で、発注者としての行動を全て適切に行っている場合、取引当事者間で十分に協議が行われたものと考えられ、通常は独占禁止法及び下請代金法上の問題が生じない旨を明記。
2 発注者として採るべき行動/求められる行動
行動①:本社(経営トップ)の関与
行動②:発注者からの定期的な協議の実施
行動③:説明・資料を求める場合は公表資料とすること
行動④:サプライチェーン全体での適切な価格転嫁を行うこと
行動⑤:要請があれば協議のテーブルにつくこと
行動⑥:必要に応じ考え方を提案すること
3 受注者として採るべき行動/求められる行動
行動①:相談窓口の活用
行動②:根拠とする資料
行動③:値上げ要請のタイミング
行動④:発注者から価格を提示されるのを待たずに自ら希望する額を提示
4 発注者、受注者の双方が採るべき行動/求められる行動
行動①:定期的なコミュニケーション
行動②:交渉記録の作成、発注者と受注者の双方での保管
5 今後の対応
✓ ①内閣官房において、各府省庁・産業界・労働界等の協力を得て本指針の周知活動を実施し、②公正取引委員会において、労務費の転嫁の協議に応じない事業者に関する情報を提供できるフォームを設置する。
(水田 裕之)